不登校と起立性調節障害|朝起きられない中学生に多い原因・治し方・対応法

「朝起きられない」「午前中は体がだるい」といった症状を訴える小中学生の中には、起立性調節障害(OD)が背景にあるケースがあります。特に中学生の約1割がかかると言われ、不登校の大きな要因のひとつとされています。しかし、症状を「怠け」と誤解してしまうと、子どもの心身にさらに負担をかけることになります。

本記事では、不登校と起立性調節障害の関係、代表的な症状、親ができる支え方、エビデンスに基づいた治し方、そして学校での対応までを整理し、安心して子どもをサポートするためのヒントを解説します。

目次

「朝起きられない」は起立性調節障害?—症状と不登校との関係を整理

小中学生が「朝起きられない」「午前中は体が動かない」と訴える場合、その背景に起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)が隠れていることがあります。特に中学生では約1割が発症するといわれており、不登校の大きな要因のひとつとして注目されています。

この病気は、単なる生活習慣の乱れや「やる気のなさ」では説明できません。自律神経の働きが乱れることで体が思うように動かなくなる医学的な状態であり、理解と適切な支援が必要です。

本人にとっても「行きたいのに体が動かない」というつらさがあるため、周囲が病気として理解することが、安心と回復につながる第一歩です。

起立性調節障害(OD)は思春期に多く、自律神経の調整不調が背景

起立性調節障害は、自律神経が血圧や脈拍をうまくコントロールできなくなる病気です。特に立ち上がったときに血液が頭に十分届かず、めまいやだるさを感じるのが特徴です。

思春期の子どもは急激な成長やホルモンバランスの変化によって自律神経が乱れやすく、その影響で発症する子が多いといわれています。とくに中学生に多いのは、身体的な変化に加え、学業や部活動による負担、睡眠不足などが重なるためです。

代表的な症状リスト

ODの症状は多岐にわたり、子どもによって現れ方も異なります。代表的な症状を整理すると次のようになります。

  • 朝なかなか起きられない:目覚ましで起きても体が重く、布団から出られない。
  • 午前中の強い倦怠感、集中力の低下:授業に集中できず、黒板を見るのもつらい。
  • 立ち上がったときの立ちくらみやめまい:急に立ち上がると視界が暗くなったり倒れそうになる。
  • 動悸や胸の不快感:少しの運動や緊張で心臓がドキドキして落ち着かない。
  • 頭痛や腹痛:登校準備の時間帯に体の不調を訴えやすい。

これらの症状は、周囲から「怠けている」「学校が嫌でサボっている」と誤解されやすいですが、実際には体の仕組みが不調を起こしている結果です。

不登校とODは併存しやすく中学生の約1割がOD、欠席・不登校の一因になり得る

調査によると、中学生の約10人に1人がODの症状を持っているとされ、その一部は不登校につながっています。特に午前中に症状が強く出るため、朝の登校時間に間に合わなかったり、学校に着いても授業に集中できないといった困難が続きます。その結果、欠席が積み重なり、学校に通うこと自体が難しくなってしまうのです。

さらに、子ども自身も「行きたい気持ちはあるのに体がついてこない」という葛藤に苦しみます。無理に登校を迫られると症状が悪化することもあり、親子の関係に緊張が生まれることも少なくありません。

したがって、ODと不登校は切り離して考えるのではなく、「体の病気と登校困難が重なっている状態」と理解することが重要です。医師の診断や学校との協力を得ながら、子どもが安心できる環境を整えることが支援の第一歩となります。

中学生に多い起立性調節障害 「中学生」で起きやすい理由と見分け方

起立性調節障害(OD)は小学生から高校生まで幅広く見られますが、特に中学生に多いとされています。思春期の身体的な変化や生活習慣の乱れが重なることで、症状が出やすくなるのです。

成長スパート期と生活リズムの変化が重なる(長期休暇明けに増えやすい傾向)

中学生は身長や体重が急激に伸びる「成長スパート期」にあります。この時期は自律神経が不安定になりやすく、ODの症状が出やすいとされています。また、部活動や塾で生活が不規則になり、睡眠不足や昼夜逆転が重なると発症リスクが高まります。特に長期休暇明けに症状が悪化しやすい傾向があります。

見分け方:夕方以降は回復しやすい・午前に悪化しやすいパターン

ODの特徴は「午前中に悪化し、午後から夕方にかけて回復しやすい」という点です。朝は体調が悪くても、夕方には元気に遊んだり活動できることもあり、周囲から「怠けているだけでは?」と誤解されやすいのです。しかし、これは病気の特徴であり、本人の意思や努力でどうにかできるものではありません。

受診の目安

「朝起きられない」「立ちくらみ」「頭痛」「倦怠感」といった症状が数週間以上続く場合は、受診を検討しましょう。まずは小児科を受診し、必要に応じて小児循環器科や心療内科を紹介されることもあります。早めの診断によって、学校や家庭での対応もスムーズになります。

親ができる支え方

起立性調節障害(OD)は本人の努力不足ではなく、体の仕組みの問題です。そのため、親が「怠けている」と誤解せず、安心できる環境をつくることが回復の第一歩となります。ここでは家庭で実践できる支え方を紹介します。

「怠け」扱いはNG 症状を一緒に記録(時間・症状・誘因)

子どもが「朝起きられない」「頭が痛い」と訴えたときに、「気のせい」「サボりでしょ」と否定すると、本人はますます追い詰められてしまいます。症状を受け止め、発症した時間や体調の変化を一緒に記録してみましょう。医療機関での診断や学校との相談に役立ちます。

水分・塩分・睡眠・軽い運動などの生活指導を“無理なく”継続

ODの改善には生活習慣の見直しが基本です。

  • 水分をしっかり摂る(1日1.5〜2リットルを目安)
  • 塩分を適度に摂る(汗をかく夏場は特に意識)
  • 睡眠リズムを整える(就寝・起床を一定にする)
  • 軽い有酸素運動やストレッチを続ける

一気に完璧を目指すのではなく、できることから少しずつ取り入れることが大切です。

学校との共有

学校に伝える際は「怠けているのではなく病気である」ことを理解してもらう必要があります。

  • 「朝は体調が不安定で1時間目に出席が難しい」
  • 「午後からは参加しやすい」
  • 「医師からは生活リズム改善と水分摂取を勧められている」

このように事実と医療情報を簡潔に共有すると、別室登校や時間差登校などの配慮を受けやすくなります。

起立性調節障害の治し方

起立性調節障害(OD)は「怠け」ではなく医学的な病気です。適切な生活改善と医師の指導を受ければ、多くの場合は改善が見込めます。ここでは科学的根拠に基づいた治し方の基本と選択肢を整理します。

十分な水分・適度な塩分・起立訓練・睡眠リズム是正・有酸素運動

治療の基本は「生活療法」です。

  • 水分摂取:1日1.5〜2リットルを目安に摂る
  • 塩分摂取:体内の水分保持を助け、血圧低下を防ぐ
  • 起立訓練:毎日数分間、壁にもたれて立つなどの練習を行う
  • 睡眠習慣の改善:夜更かしを避け、同じ時間に起きるよう心がける
  • 軽い運動:ウォーキングやストレッチなど血流を促す活動

これらは無理のない範囲で継続することが大切です。

薬物療法

生活療法で改善が難しい場合は、薬の力を借りることもあります。代表的なのは 昇圧薬(ミドドリン) で、血圧を安定させる効果があります。また、症状のタイプによってはβ遮断薬や漢方薬が処方されることもあります。これらは医師の診断と処方に基づいて行われるため、必ず受診のうえで適切に使用することが必要です。

漢方やサプリメント

一部の医療機関では、生活療法や薬物療法に加えて漢方薬を併用することもあります。ただし、効果や相性には個人差があるため、必ず主治医に相談することが大切です。独断でサプリメントや代替療法に頼るのではなく、医師と相談しながら治療法を組み合わせることが安全で効果的です。

起立性調節障害による不登校への対応

起立性調節障害(OD)は、本人の努力ではどうにもならない体の病気です。そのため、不登校の子どもを支えるには、家庭だけでなく学校の理解と柔軟な対応が欠かせません。ここでは、学校と一緒に進められる具体的な支援の方法を紹介します。

段階的な登校

いきなり教室にフルタイムで戻るのは難しい場合が多いです。

  • 午後だけ登校
  • 別室で過ごす
  • 数時間だけの短縮登校

といった「中間解」を使うことで、学校とのつながりを保ちながら少しずつ慣らしていくことができます。無理のない登校プランが回復を後押しします。

出席扱い等の制度

ODの症状で通学が難しいときでも、オンライン学習や教育支援センターでの活動が「出席扱い」と認められる場合があります。これには学校や教育委員会との相談が必要ですが、制度をうまく活用することで学習の遅れを防ぎ、心理的負担を軽くできます。

医師の意見書が有用な場面

学校に理解してもらうためには、医師の意見書が役立ちます。

  • 「朝は体調不良が強いため、午前の出席は困難」
  • 「午後からは活動しやすい」
  • 「無理な登校刺激は症状を悪化させる可能性がある」

こうした医学的根拠を添えることで、学校側も配慮をしやすくなり、遅刻や欠席として処理されることへの不安も軽減されます。

朝起きられない日にどうする?

起立性調節障害(OD)の子どもにとって、「朝起きられない」はよくある症状です。その日の体調を無視して無理に登校させようとすると、かえって症状が悪化したり、親子関係がぎくしゃくしてしまうこともあります。大切なのは「休む日にも意味がある」と考え、体調に合わせた過ごし方を工夫することです。

起床〜午前:補水→軽いストレッチ→段階的起立でリスクを下げる

朝起き上がるのが難しいときは、まずベッドの上で水分をとることから始めます。その後、布団の中で軽く体を伸ばし、座る→立つと段階的に体を起こすことで立ちくらみを防ぎやすくなります。午前中は無理に活動せず、体を慣らす時間と捉えると安心です。

正午以降:回復しやすい時間帯に学習・面談・別室登校を配置する工夫

ODは午後や夕方になると症状が落ち着きやすい特徴があります。調子が戻ってきたら、家庭学習や読書、オンライン面談などを配置すると効果的です。学校とも相談して午後からの登校や別室参加を取り入れると、無理なく「学校とつながる」時間を確保できます。

繰り返す不調の見える化

体調不良の日は、「何時に起きられたか」「どんな症状があったか」を簡単にメモしておくと役立ちます。この記録を学校や医療機関に共有すれば、具体的な支援や治療方針につながります。子ども自身も「自分の体調に波がある」と理解でき、安心感を持ちやすくなります。

まとめ

起立性調節障害(OD)は、中学生に多く見られる身体の病気であり、「怠け」や「やる気の問題」ではありません。朝起きられない、午前中に体調が悪化するなどの特徴的な症状があり、不登校の一因となることも少なくありません。

不登校とODが重なる場合、まず親が「病気である」と理解し、子どもの言葉を否定せず受け止めることが大切です。そのうえで、生活習慣の改善(水分・塩分・睡眠・軽い運動)を家庭で支え、学校には医師の意見書を添えて配慮を求めましょう。別室登校や時間差登校などの「中間解」を活用すれば、無理なく学校とつながり続けることができます。

ODは生活療法や医療のサポートで改善が見込める病気です。親・学校・医療が三位一体となり、子どものペースに合わせて段階的に対応することが、不登校と病気の両面を支える確かな力になります。

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